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海外「食」レポート
London Report
Vol.12 「ファットダック」の実験キッチンを覗く
Vol.11 パリの女性シェフ、エレーヌ・ダローズがロンドンへ移住
Vol.10 ロンドン男性の血を騒がすステーキハウス
Vol.9 カップケーキにハマる大人たち
Vol.8 気鋭のフード雑誌が、注目したレストランとは
Vol.7 “ゆるさ”と“前衛”がミックスする東の食
Vol.6 フィッシュ&チップスが海を救う!?
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Vol.4 ロンドンがシャンペンで溢れるその訳とは
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海外「食」レポート 私を刺激するヒト・モノ・コト〜Pairs, London, Torino, New York〜



London London Vol.11 2008年7月29日
パリの女性シェフ、エレーヌ・ダローズがロンドンへ移住

清水直子 London・筆者プロフィール
清水直子(しみずなおこ)

1995年渡英、ライター活動を開始。
帰国後「あまから手帖」にて編集者を務めたのち、再び渡英。ロンドンを拠点に“今どき”から“古き良き”食についてリポートする。

イギリスの夏の恒例はピクニック。でも今年はテラスでのBBQパーティーを計画中。ハーブをきかせた仔羊肉のバーガー、ヨーグルトとスパイスでマリネしたチキン。サラダはタイ風に? 近頃はピクニックもBBQも国際色豊かなメニューが人気。でも、デザートにはダブルクリームをかけた苺が欠かせないのは、やっぱりイギリスでしょうか。

ロンドンにはフランスのスターシェフが出店したレストランがいくつかある。新しいところでは、昨年11月、ドーチェスターホテルに進出したアラン・デュカス。このほか、ジョエル・ロブションの『ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション』、ピエール・ガニエールが音楽やアートとのコラボレーションを目指す『スケッチ』。プルーセル兄弟の店も撤退はしたがピカデリーサーカス近くの大きな建物にダイニングを構えていた。

どの店も、オープン直後はおおいに話題になる。だが、残念ながら、最終的にはいずれもイギリス人のお気に入りの店としては定着していない、というのが正直なところだろうか。 理由にはいろんな要素が絡んでいるのだろう。基本的に、食習慣の違った土地での成功は難しいことである。同じ国であっても、西と東、北と南では考え方も習慣も違う。(まさに我が日本のように)。ましてや異国、さらには、シェフが不在というサテライト店は、そこにどうしても弱さがでてしまうのかもしれない。

エレーヌ・ダローズそんな中、今月14日、また新たにフレンチシェフがロンドン進出を果たした。エレーヌ・ダローズ。パリ左岸に瀟洒な2ツ星ダイニングを構える、いわずと知れた、女性シェフだ。彼女の出店がこれまでと違っているのは、なによりも、娘と共々、ロンドンへ移住してきたことだ。そう、単にプロデュースや指揮をとるだけに終わらず、この地に暮らし、彼女自らが厨房に立つというのである。

彼女がロンドンで店を構えるのは、英国伝統が脈々と受け継がれる老舗のコンノートホテル内。ここのメインダイニングがそっくり彼女の店となった。(このほか、ホテル内のカジュアルレストラン『Gallery』、この秋にオープンを控える『Grill』、バンケットまでを彼女が受け持つ)

コンノートホテル コンノートホテルと言えば、先に、アンジェラ・ハートネットという女性シェフが名を冠したレストランを有して、話題となっている。成功を収めたアンジェラは新たに自身のホテル&レストランを開く計画で、ここを抜けている。後座を獲得したのが、再び女性シェフ、というのはなんだか興味深い。
私的には、コンノートといえば、伝説の英国式朝食をいただいたホテルだ。磨ききられたマホガニーとオークパネルのダイニングで、サービスをする英国老紳士が、秒刻みで好みのトーストとゆで卵の調理時間を聞いてくれた。もう10数年以上前のことになる。

さて、話をエレーヌ・ダローズに戻そう。料理は、パリでのスタイルを踏襲している。彼女の出身地であるフランス南西部が香るもの。素材自身が語る、そんな料理だ。ガスコーニュ地方の黒豚の生ハムは目の前でカービングされ、パリでは5種のスタイルで登場するフォアグラも、もちろんここでも外されない。これに、ドーバーソールやアンガス牛などのイギリス素材を掛け合わせたメニュー構成となっている。アラカルトには、パリのメニューから特に人気が高く、シグニチャーであるものが抜粋して選ばれたとか。布で包んで調理するフォアグラの前菜はビガロチェリーとマスカットが添えに。キャビアのゼリーがかけられたオイスターのタルタルは、テイスティングメニューの最初に登場する。“オールスター・メニュー?”とでも呼びたくなるが、手始めのトライとしては、なかなかお得な気もする。特に、イギリス人に確実な第一印象を植え付けるには、これは案外、賢い選択なのかもしれない。

スタッフもパリからヘッドシェフを呼んで指揮をとらせるほか、ロンドンの綺羅星レストランのマネージャーやソムリエをしっかり引き抜いている。なかなか本腰を入れているのが伺える。

しかし、元々、ロンドンでの支店を構えることは、彼女としては本望ではなかった。とあるインタビューではこう語っている。

「私は店舗展開することには全く興味はありませんでした。2つのレストランを持つことはできないと思っていました。あくまでも、私はひとつの店を切り盛りするシェフなのです。パリとロンドン、どちらの店に立っても、一方を留守にすることに引け目を感じます。でも、お誘いをいただいたコンノートホテルを訪ねてみて、大きな衝撃を受けました。由緒あるホテルの70ミリオンポンド(140億円)をかけたリノベーションに、イギリスの伝統とそれを守りながら飛躍するエネルギー。パリがいま失っているものを感じたのです。」

彼女が従来のシェフと違って、ロンドンへ移り住むことを決断した理由。 誠実さとパッションは、彼女の料理にそのまま注がれる。

「主役はシェフではなく、あくまでも素材。素材の声を尊重してイギリスでも同じように料理を作るだけです。」

辛口批評がお得意のイギリスで、好意的な反響を受けることを、私個人としては期待してならない。

★Hélène Darroze at the Connaught
http://www.the-connaught.co.uk/london_restaurant.aspx

★The Connaught Hotel
http://www.the-connaught.co.uk/

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