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海外「食」レポート 私を刺激するヒト・モノ・コト〜Pairs, London, Torino, New York〜



Paris Paris Vol.14 2008年12月19日
レストラン“ローラン”のケアシガニのジュレ

Paris・筆者プロフィール
伊藤文(いとうあや)

1993年渡仏。フランスにおける食を中心に、ヨーロッパの歴史や文化を掘り下げる取材を重ねる。
著書に「フランスお菓子おみやげ旅行」(東京書籍)。訳書に「招客必携」、「拝啓 法王さま 食道楽を七つの大罪から放免ください」(共に中央公論新社)など。
3月には、翻訳を手掛けた、ピエール・ガニエール&エルヴェ・ティス著「料理革命」、ジョエルロブション著「ロブション自伝」(共に中央公論社)の2冊が新たに刊行されています。

3ツ星“メゾン・ピック”とほぼ同じ歴史をもつ、アヌシーの“ペール・ビーズ”へ。51年から30年以上3ツ星を維持したオーベルジュ・レストランで、現在のオーナーシェフは4代目のソフィ・ビーズ。女料理人である。スペシャリテは、エクルヴィスのスープ。テイクアウトも可能だったので、持ち帰り、さっそくエクルヴィスのソテーを作り、一緒にいただいた。スパイシーでコクがあって、抜群でした。

ローラン 決して人を飽きさせないスペシャリテのある店、というのがある。そして、それを食べるがためにお客は足を運ぶ。例えば、一世代を築いたジョエル・ロブションのエンブレマティックなクリーミーなポテトのピュレ。あるいは、ライヨール村のミッシェル・ブラの、季節の野菜や花を一皿に散りばめた“ガルグイユ”。ロブションは、「これはという皿ができたら、メニューから外さないこと。それを目当てにやってくるお客の期待を裏切らないこと」と言っていた。しかし、今日ほどスペシャリテを守り続けることが難しい時代はないだろう。時代が過ぎゆくスピードは速く、お客はより新しいもの、物珍しいものを求めるようになった。新作が崇められ、少し前のクリエーションでさえ古典に成り下がり、あっという間に隅に追いやられてしまう。そんな時代なのにも係らず、2001年来、隠れたファンを多く持ち、それを食べるためにやってくるお客があとをたたないという名皿がある。それは、パリ、シャンゼリゼ大通りの緑溢れる公園の中にある“ローラン”、エリゼ宮の隣にある高級レストランの“ケアシガニのゼリー寄せ(Araignée de mer dans ses sucs en gelée, crème de fenouil)”だ。

ケアシガニのゼリー寄せ それは、脚の長い上品なカクテルグラスでサービスされる。一番下にエストラゴン風味の蟹みそのムスリーヌを敷いて、その上に蟹肉を置き、イクラも少々散らして、蟹のジュレを流す。冷所に置いて休ませ、サービス直前に、ウイキョウのクリームで表面を覆う。この一品は60gだが、何とその1品に必要な蟹は1kg以上にも及ぶという。そして、毎日30〜40皿の注文が入るのだ。

アラン・ペグレ シェフはカンヌ出身のアラン・ペグレ41歳。“ジャマン”のジョエル・ロブション、“クリヨン”のクリスシャン・コンスタンに師事したという、王道を歩んできた正統派だ。2001年2月、当店のシェフに就任。“ケアシガニのゼリー寄せ”は、その当初に創作した皿の一つである。カニはアランにとって、大好物の一つ。しかし、食べるのに一苦労するのは言うまでもない。そこで、そうした苦労なく、蟹肉をたっぷり味わってもらえるような、贅沢で濃厚な一皿をと考えついたのが、このゼリー寄せだった。初めは、蟹の甲羅に詰めて出していたが、お客の進言もあって、よりスマートかつ高級レストランらしさを表現できるグラスでサービスすることにしたという。

 1週間に3度、ブルターニュ地方から直送されるケアシガニ。シェフが推敲を繰り返してレシピを作った香草のブイヨンでゆがき、香りを付ける。ニンジン、レモン、オレガノ、パセリ、コリアンダー、カルダモン、ウイキョウ、セロリ、、、。甘味のある蟹肉がより華やかに甘美に仕上がり、エストラゴン風味の蟹みそのムスリーヌ、ウイキョウのクリームとのハーモニーが織りなされる。その旨味を一番良い状態で味わってもらうため、4〜6度でサービスするという厳格さもつらぬく。まさに、スペシャリテと呼ばれるに相応しい一皿である。

 食後のコーヒーのお供に供されるパイ生地の菓子“パルミエ”も絶品だ。しっかりとした焼き上がり、さっくりとした食感のパイ生地は、バターと砂糖、小麦粉が織りなす、究極のハーモニー。“ケアシガニのゼリー寄せ”も“パルミエ”も、鍛錬された仕事による揺るぎのない結果なのである。

Laurent Laurent

41 av. Gabriel 75008 Paris
Tel. 01.42.25.00.39
土昼、日休

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