昨年紹介したレストラン“アガペ”の厨房に、日本人の料理人、沖山克昭さんがいる。1976年生まれの32歳。ソーシエ兼キュイッソンの責任者を任されるスーシェフとして活躍する。シェフのベルトラン・グレボは弱冠27歳。グラフィックアートを目指していたために、料理の世界を志したのは2002年。“ホテル・スクリーブ”、ジョエル・ロブションの“ラ・ターブル”などで修業をし、最終的にアラン・パッサールの“アルページュ”で経験したことは、昨年のパリ情報でも記載している。5年と経験は浅いが、グラフィックアートを目指しただけあって、皿の構成をヴィジュアル化することはできる。しかし、味わいに深みを与えることは、難しい。それを、補うのが沖山さんの仕事だ。
沖山さんは、日本では、鈴木喜代司さん、河野透さん、森重正浩さんという日本のフランス料理界を代表するシェフに師事して、2002年に渡仏した。ジョエル・ロブションの“ラ・ターブル”、“タイユヴァン”などを経験。たまたま“ラ・ターブル”で研修生をしていたグレボと知り合って、“アガペ”のオープンで声がかかったのだ。「モダンで軽い料理もいいが、ベースがしっかりしているからこそ引き立つ」と、アガペの料理を本質に牽引する。
その沖山さんは、友人の森下亮さん(35歳)と決起して、昨年の9月にケータリンググループ“スケッチブック”を立ち上げた。森下さんは、日本では地元岡山県のカフェやバー、居酒屋、レストランなどに従事。最終的には、現在では同県でもトップクラスの、ある店の立ち上げから係った。オーナーである友人とホール担当の社員と、森下さんが3人で、試行錯誤をしてゼロから創り上げた店。現在は7店鋪を数え、岡山を代表する店として認知される。森下さんは、2004年に渡仏するまで、4店舗目の立ち上げまで手伝ったという。全ての経験と知識を注ぎ込み、人生の仕事として手応えを得た。新たな経験を求めて、フランス・パリへ。“ステラ・マリス”、“パシフォール”などで働き、現在は“カフェ・ダルマ”の料理人として働いている。沖山さんと森下さんは4年前に、共通の友人のパーティを通して知り合った。食を通して、楽しいことをやりたい、というお互いの思いが合致して、なくてはならない無二の友人に。そしてその思いが、“スケッチブック”という第一段階の形として現れることになった。同グループのメンバーは日本人30人で、半分は料理人。建築家やモード関係など、さまざまな業種の人間が携わる。平均年齢は30歳と若い集団だ。
「とにかくお祭りが大好き。皆でアイディアを出しあって、食を通じたイベントをやっていきたいと思います」という沖山さん。決起したばかりだが、現在は、116という広大な食のスペースで開催されるランチやディナーなどの依頼を受け始めた。決起会も116で開催した。その際には、料理人は各自自前のレシピでケータリングの料理を創り発表。実践で役立つように、各レシピの原価表も作成し、森下さんがデーター化するなど、組織力も抜群である。
「4年前から、クリスマスパーティを開催しているのですが、第一回目は、友人が友人を呼んで100名も集まりました。そうした中で感じるのは、各自、それぞれの道のスペシャリストとしてパリに生きているということ。皆がアイディアを出しあえば、面白いことができるのではないか、ということです。例えば、依頼された料理は僕たち料理人が考えるとしても、メニューのデザインまでは及ばない。そんなときに、デザイナーを生業とする人に頼んだら、より良い形で、いいものが生まれるはずです。サイトのデザインを考えるにしても同じ。等々、皆でアイディアと力を出し合えば、より面白いものが生まれますし、何よりも、一人でどうこう考えて行動するより楽しいと思います」。
そのうちに2人で店を持つこと、が2人の遠くない夢だそう。と同時にケータリンググループを発展させて、今までになかった楽しいイベントを仕掛けていきたいという展望もある。
そんな若い人たちの、エネルギッシュな思いと行動を心から頼もしく思う。60年代から起こったスターシェフだけの時代は多分終わった。今や21世紀で、多様化する料理業界。次世代に新しい風が当たり前のように巻き起こっている。人と人を繋ぐ料理を伝えたい。昔からそう思っている私の心にスケッチブックの存在は響いた。