先日、当店『名酒館タキモト』主催の「名酒を楽しむ会」で、「吟醸ひやおろしの会」を開催いたしました。実は、この会にはもうひとつ「世界にはばたけ!日本酒の今」というテーマがありました。と申しますのは、参加いただいた3つの蔵元、「齊弥酒造店(秋田)」「藤井酒造(広島)」「菊姫合資会社(石川)」は今年の春、ロンドンで開催されたI.W.C.(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)でゴールドメダルを受賞された蔵元なのです。
I.W.C.というのは1984年に創立された大規模なワイン・コンペティションで、世界に大きな影響力を持つことで知られていますが、今年、2007年にはじめて「SAKE部門」が創設されまして、その記念すべき第一回のゴールドメダル受賞酒を味わっていただこうという企画でございました。
I.W.C.の審査というのは、大変厳しいものであるそうですね。400名近いワインの専門家による完全ブラインド・テイスティング方式の審査が行われるそうです。その内には共同議長を務められているサム・ハロップ(SAM HARROP. MW)氏はじめ、世界でも最難関といわれるワインの資格「マスター・オブ・ワイン」の称号を持つ方々が40名以上いらっしゃるそうですから、相当な権威ある賞と言えると思います。
受賞酒の傾向をみると、日本人の評価とは全く違うな、というのが率直な印象です。
基本的には酸度が高く、ボディのしっかりした、飲みごたえのある酒が選ばれたように思います。これは、ヨーロッパの食文化における酒のあるべき姿、ワインのように食べながら楽しむための酒、すなわち「食中酒」という嗜好が基本にあるのでしょう。日本の伝統的な酒の飲み方といえば、刺身のような淡白な肴をちょこちょことつまみながら酒だけを飲むようなスタイルでしたが、西洋では肉料理や熱い料理に合わせても美味しい「日本酒」というものが求められているのかもしれません。僕は、伝統の「淡麗辛口」も大切、でもこうした欧米の基準を受け入れてもいいんじゃないかと思っているんです。日本酒離れの激しい若い世代や女性のライフスタイル・嗜好にも合っているように思います。外国で、今のそうした日本人のライフスタイルに合う酒というのが評価されて、ブーメランのように戻ってきてくれるといいと思います。意外にも、そこに日本酒存亡の危機を回避するヒントがあるかもしれません。
それから、酵母の違いなどもよく理解されていたことに驚きました。「由利正宗」のように、昔から受け継がれてきた蔵付酵母で仕込んだ酒が評価されていますし、他にも全体に「小仕込み」「手作り」の酒が高く評価されたように感じます。こうした地方文化を担っていた自醸蔵による、いわゆる「地酒」こそが「日本酒」として外国で評価されているということに、我々日本人が、逆に学ぶ事もあるように感じました。
今日、蔵元の若手後継者には外国語が堪能な方々も多くいらして、彼らの存在というのは非常に大きな力を持っていますね。日本の自然、民族的な風土、伝統の技などをあらためて評価し、体系的に世界へ発信していくためには、語学力だけでなく、呼応する教養、日本の文化を守ってきた誇りが必要だと思うのです。
折しも先日発売された『東京ミシュランガイド』でも3ツ星に選ばれた8店のうち、5店が寿司・和食店であったと話題ですね。こうした機会に、日本の食文化、またそれを取り巻く背景文化をしっかり伝達するものとして、「日本酒」も世界へはばたいていって欲しいと願っています。