かつて香港の広東料理の宴席において、前菜として起用されることが多かったのが焼き物の「焼臘」でした。皮付きの豚バラ肉の「焼肉」、家鴨の丸焼きの「焼鴨」、鵞鳥の丸焼きの「焼鵞」。鶏を丸ごと一羽、たれ汁で仕込んだ「貴妃鶏」/「白切鶏」、牛の脛肉や豚の膝肉などの冷製です。「金銭鶏肝」は、そうした焼き物の前菜の一種で、鶏の肝、豚の脂身などを甘味の利いたタレにつけこみ、焼いたものです。「金銭」というのは、かつて流通していた硬貨にちなんだもので、円形に形どられています。
「金銭鶏肝臓」は、「金銭鶏肝」に、塩味の利いたこくのある旨味を特徴とする中国ハムの「金華火腿」の極上の部位を加え、味わい、風味をより複雑化させ、豪華な前菜の一品に仕上げたものです。福臨門の創始者、徐福全氏の考案によるもので、かつて富裕層を顧客とする出張料理専門店時代に前菜の一品、また、料理の添え物として供されていたそうです。
新鮮な魚介類が流通するようになって以来、豪華な高級宴会には新鮮な魚介がふんだんに使われ、前菜には「白灼蝦」(茹でえび)、後には紹興酒などの中国酒でえびを茹でる料理などがもてはやされるようになりました。もっとも、ここ最近、懐古的な料理ブームもあって焼き物の「焼臘」が再脚光を浴び、特に家族、親族、友人などとのプライベートな宴会の前菜として起用されることが多くなったようです。
「金銭鶏肝臓」は、現在でも香港の「焼臘店」、伝統的な懐古料理を看板にする料理店などで出会ますが、「金華火腿」と組み合わせた「雲腿金銭鶏肝」はおそらく福臨門だけのものです。