「冬瓜盅」の具材は、かつては干貝柱、干し蝦、などの乾貨素材や、家鴨の内臓の乾燥物や家鴨の焼き物の「焼鴨」などが中心でした。その後、香港の経済的な繁栄を背景にした食への関心の高まり、流通の発達や整備などを背景に、海鮮の魚介が宴会料理の主要な素材となり、「八寶冬瓜盅」にも「蟹の爪」などが加えられるようになりました。また、ふかひれを具材にした「魚翅冬瓜盅」などが宴会料理の主要な料理である「大菜」として、もてはやされるようになったものです。
今回の学会のコースでは、広東地方の地方料理、郷土料理を中心にしたコースということでしたので、当初は伝統的な料理を踏襲した「八寶冬瓜盅」を組み入れることを考えていました。しかし、福臨門といえばやはりふかひれの料理を欠かせません。ということで、ふかひれだけを具材にした「生翅冬瓜盅」にしました。
「生翅」は、一般には「散翅」と呼ばれるばらばらの状態にほぐれたふかひれ、もしくは、くずひれを意味し、その音にちなんで料理名としては「生翅」と記されます。
福臨門の「生翅」は、海虎翅(いたちざめ)の胸びれを戻したものです。
海虎翅は、翅絲と呼ばれるふかひれの繊維が太く、長く、プリプリとした歯触りながら、やわらかい質感を持ち、ねっとりと舌にまとわる膠(にかわ)質独特の「ぬめり」があるのを特徴としています。また、海虎翅の胸びれはもともと下処理後の乾燥時、骨や肉をとった時点でばらばらにほぐれた状態になることから、福臨門では「生翅」としています。ふかひれの種類を問わず、ほぐれたふかひれが使われることが多い一般の広東料理店などでの「生翅」とは異なるものです。